Vの歌を聴け

「完璧な投資などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。」

投資家は歩く

「課長、もしかして、歩いて出勤してるんですか?」

若い女性社員がまるで、夏休みに海に遊びに行って磯の石をひっくり返したら、気持ちの悪い虫を見つけたんです、とでも言いだしそうな顔付きで、そう僕に尋ねる。


「そうなんだよ、株の含み損が酷くてね。ガソリンを買うお金も無いんだ。僕の車、ハイオクだし」

「またまたー。鍛えてるんですか?」
彼女は、僕の言うことなど1文字も信頼するに値しないと判断したようだ。

違う、そうじゃない。
無意識に心の中で、鈴木雅之が叙情的なメロディを歌い上げる。

僕の持っている銘柄は、つい何日か前に、上場来最安値をつけたんだ。
損益率でいったら、市場平均をアンダーパフォームどころか、-43%の劣悪なパフォーマンスなんだ。

でもまあ、彼女の気持ちもわからないでもない。

会社始まって以来、最年少での昇進スタート。
今では、よその部長級を理詰めで言い負かすこともある。
30歳を過ぎてからだけれども、ウェイトトレーニングを初めて、今ではなかなかの筋肉質な体型だと、自分で鏡を見てもそう思う。
気楽な独身で、給料は同年代に比べたらだいぶ多い方らしい。
自意識過剰のつもりはないが、周囲の人間が、あいつはできるやつだ、とそう思っているのを感じるし、それに応えるべく、常に新しいことを学び続け、人と違うことに挑戦し、結果を出してきたつもりだった。

順風満帆とまでは言わないが、多くのことが、良い方向に向かっている。そんな風に感じていた。

そう、投資を始めるまでは…

残り少ないJPYを携え、市場で生き残るためには、ガソリンなど買っている余裕は無いんだ。僕はそう言い聞かせる。
そして、今日も、片道40分の道のりを徒歩で、出勤する。

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