Vの歌を聴け

「完璧な投資などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。」

S&P500ETFを毎日

 凍てつく寒さから身を守るために暫くのあいだ眠りについていた、小さな動物や虫たちを、優しく暖め、地表へと誘う、穏やかな春は長くは続くかない。
僕らが、少し寝過ごしたくまのように穏やかな気持ちで、春の日差しを存分に浴び、新しい季節に心躍らせているその僅かな時間の中で、いつの間にか春は、自ら秘めたる凶暴さに目覚め、ある日突然、僕らに牙を剥く。

暑い。いや熱い。そして、痛い。まるで夏みたいだ。
だが、夏はもっと暑い。そんなことはわかりきっている。あいつはまだ、ほんの少しアップを始めたばかりなんだ。今年こそあいつは、本気で僕ら全員を殺すつもりで仕掛けてくるだろう。

いいだろう、思い切ってやってくれ。そして、世界中の投資家のポートフォリオもこんがりと焼き尽くしてくれ。後にはNYSENASDAQもない、TもIBMもMCDもKOもMOもJNJもない、ポスト資本主義の荒野が広がることだろう。そうしたら、少なくとも、今よりも僕は僕自身のペニスに自信を持てることだろう。

そんなことを考えている間にも、紫外線は、通勤コースを歩き続ける僕の肌を容赦なく突き刺し、細胞の隙間から僕自身を蝕んでいく。

この時期、紫外線対策は欠かせない。日に焼けること自体は、それほど深刻なことでは無い。深刻なのは、紫外線に長時間晒されることによって生じる、全身の倦怠感だ。「紫外線疲労」という言葉はまだあまり馴染みがないかもしれないが、最近になってようやく注目されるようになった。日焼けにより、体内に活性酸素が過剰に生成され、これを中和するために様々な栄養素が余分に使われなければならないため、結果的に、疲労感が高まり、倦怠感が増す。

出勤前、僕はいつものように、日焼け止めのボトルを手に取る。SPF50。SPFに続く数字は、日焼けが始まる、つまり紫外線の影響を受け始めるまでの時間だ。SPF25で8時間、SPF50で16時間程度、平均的な日照時における紫外線の影響を軽減してくれる。

けれども、僕はこのSPF50、という表記を見るたびに、僕はS&P500ETFを連想してしまう。そして、史上平均にすら遠く及ばない、僕のポートフォリオのことを否応なしに思い出す。株式投資による含み損についての後悔から、幾らかでもキャッシュを温存しようと徒歩通勤をしているというのに、日焼け止めすら僕を嘲り笑うのか?

まるで関係妄想だな。もしかしたら、含み損は、ドーパミンの放出量を過剰にする働きがあるのかもしれない。

本当は今すぐにでも市場に出向き、VOOやVを買い漁りたい。そして、一生添い遂げる妻を娶るがごとく、永久保有銘柄として僕のポートフォリオに組み込みたい。そして、一生利確することなく、スローセックスを楽しみたい。
けれども僕には、JPYもUSDも無かった。買うための資金が無いのだ。これらを買うには、-40%の劣悪なパフォーマンスを叩き出している銘柄を、損切りしなければならないのだ。
僕にはまだ、どうしてもそれができなかった。そんなことを考えながら、僕は交互に一歩一歩足を運ぶ。耳に突っ込んだイヤホンからは、シングライクトーキングの懐かしい楽曲が大きな音で流れ続けている。額から流れた汗は、日焼け止めクリームを溶かし、皮膚をつたって僕の瞳を棘のように刺した。

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