誰かの叫びが聴こえる
僕はいつも、夜は22時にはベッドに潜り込むことにしている。それ以上、夜更かしをすると、次の日の仕事のパフォーマンスが低下することを、よく理解しているからだ。
昨日も、いつものように、ヤフーファイナンスでひととおりのニュースを確認した後で、ベッドに体を横たえた。すぐに、睡魔が霧のように僕を包み込む。
少しすると、隣の部屋から男の叫び声が僕のくねくねとした内耳を通り抜け、鼓膜を軽く刺激した。
なんだ?なんて言ってるんだ?
いくつもの物理的な壁をすり抜けた空気の震えが、僕の脳を揺らす。
ギャファガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア?
隣の部屋の男は、こう叫んでいるようにも聴こえる。
一体なんのことだろう。もしかしたら、彼も僕と同じくらい、深刻な問題を抱えているのだろうか?
しかし、なんにせよ、大声で叫ぶほど何かを渇望できるということは、僕にとっては少し、羨ましい気もする。それに、どんな問題だって、ポートフォリオに"V"を入れておけば、大抵のことはなんとかなる。
深刻なのは、心では"V"を求めているのに、今更ポートフォリオには組み込めない複雑な事情がある場合だ。そう、僕のように。
彼の抱える問題が一体どんなものか、まるで見当がつかないが、ヴォネガットならこう言うだろう。
「そういうものだ」と。
「くそが、よ…」僕も、インクをひっくり返したような闇の中で一人、ベッドに横たわったまま、試しに静かに呟いてみる。それは全く僕の言葉には聴こえなかった。